三重県伊勢市に位置する、宇治山田駅です。
近鉄電車、三重交通が発着します。
駅前のバスのりば
伊勢神宮(内宮)の玄関口でもある宇治山田駅には、駅前ロータリーにバスのりばがあります。しかし、今回紹介するのはこちらではなく、電車が発着する高架のプラットホームです。
それでは改札に入り、行ってみましょう。
1~4番線の4つののりばを有する、宇治山田駅。
1番線と2番線は、宇治山田駅止まりの列車が発着する頭端式のホームです。
1番線には平行して、かつて使われていたバス乗降場があります。ここが今回の主役です。
現在はバスの発着はありませんが、概ねそのままの状態で残されており、当時の様子をうかがい知る事ができます。
賢島方には、バスを回転させる転車台がありました。
転車台
中川方から高架へ上がってきたバスは、賢島方にある、この転車台で向きを変えていました。
↑2020年撮影 特急賢島行き(3番線にて撮影)
そもそも、何故に宇治山田駅のプラットホームに、バスのりばがあるのでしょうか。
説明すると、1970年まで近鉄鳥羽線(宇治山田駅~鳥羽駅間)が全線開業しておらず、名古屋や京都、大阪から来ると、この宇治山田駅が終点の駅でした。(1969年に五十鈴川駅まで延伸)鳥羽や賢島へ向かうには、宇治山田駅でバスに乗り継ぐ必要があったのです。そこで、近畿日本鉄道と三重交通は、合弁で三重急行自動車を設立。1961年に「特急バス」が宇治山田~賢島間を結びました。
私の手元に1969年1月の全国版時刻表があります。そこから伊勢志摩の項目を調べると、三重急行のバス路線を見つけました。そこには「指定制」と表記されています。近鉄特急に連絡するバスですから、もしかしたら、近鉄特急の座席指定の仕組みを使っていたのかもしれません。時刻表に記載されている停留所は、宇治山田駅、磯部センター、賢島、観光ホテル前です。全線を50分で結んでいました。便数は1時間あたり2便がありますが、興味深いことに30分間隔のような等間隔ではありません。例えば、上り便の間隔を抜き出すと20分-40分の繰り返しです。近鉄特急のダイヤに詳しい方ならば、ここでピン!と来るかもしれません。名古屋と伊勢とを結ぶ「名伊特急」のダイヤと同じです。
(※宇治山田駅では20分-40分間隔ですが、近鉄名古屋線内に入ると「名阪(乙)特急」1本が加わるため、これで「乙特急」は概ね20分間隔になります)
当時のダイヤを調べると、賢島を出発したバスが宇治山田駅に到着するのが、毎時30分と50分です。そして宇治山田駅から近鉄名古屋駅行きの近鉄特急が出発するのが、毎時50分と10分。乗り継ぎ時間20分で賢島~名古屋間が繋がります。当時の近鉄特急は、1964年に開業した東海道新幹線と名阪間でライバル関係にありつつも、同時に新幹線を使って近鉄エリアに利用者を呼び込む戦略をとっており、東京-(新幹線)-名古屋-(近鉄特急)-宇治山田-(三重急行)-賢島という伊勢志摩へのルートが完成しました。
(※ちなみに、上本町行き「阪伊特急」と京都行き「京伊特急」の出発時刻は、宇治山田駅を毎時00分でした。こちらもバスと乗り継げます)
その後、1970年に鳥羽線の全線開業、志摩線の改軌が完成すると、近鉄特急は、鳥羽・賢島まで直通出来るようになります。「特急バス」の役割は終え、翌1971年に廃止されました。
さて、2024年の宇治山田駅です。
2番線に宇治山田駅止まりの近鉄特急がやって来ました。かつてのように、疑似的にバスのりばへと行ってみましょう。
終点の宇治山田駅に到着。
疑似放送:(「ご乗車ありがとうございました。賢島方面のバスは1番線の横から出発致します」)
(「乗車券をお持ちでないお客さまは、窓口へどうぞ」)
車止めの先にあるのは窓口。シャッターが閉じていますが、かつてはバスの乗車券を発売していました。「特急バス」が廃止になった後に、定期観光バスが発着していた時期があったので、その名残かもしれません。
(「賢島方面のバスは、こちら1番線の横から出発致します」)
(「このバスは、志摩観光ホテル前行きです」「乗車券を拝見します」)
(「お待たせしました。出発致します」)
そして、出発したバスは、中川方のアプローチを降りて一般道へ。目的地へと向かうのでした。
一般道から、宇治山田駅をのぞみます。
柵がしてありますが、構造的には今でもプラットホームまで車で行くことが可能です。
転車台を下から。
円形の高架が特徴的です。その高架下は自転車駐輪場になっています。
最後に、一時期発着していた定期観光バスについてふれると、ここを三重交通のバスが発着していました。もちろん転車台も使っていたそうです。
1993年の「近鉄時刻表・秋冬号」(業務用)を調べると、「伊勢志摩周遊定期観光バス」の記載がありました。のりばは「近鉄宇治山田」と「宇治山田駅前」の2か所です。どうやら、1番線の横から出発し、高架を下りて、駅前のバスのりばに寄ってから目的地へ向かっていたようです。
定期観光バスの一例を紹介すると、「神宮とスカイライン」コースは、宇治山田~鳥羽間を約4時間かけて、内宮や伊勢志摩スカイラインを周遊しながら目的地へと向かいます。荒磯料理や松坂牛などの食事付きコースもあります。他にも、鳥羽水族館、ミキモト真珠島、鳥羽湾観光船に寄るコースもありました。
最近では、テレビ番組(NHKのブラタモリ)で転車台が紹介されたこともあってか、この転車台そのものが観光名所になりつつあります。
近畿日本鉄道の伊勢志摩開発に貢献した、歴史的な構造物ですから、後世に残していけたらいいですね。
<撮影2024年4月>