あおい交通 ピーチバス
小牧駅前 6時25分発 大城ルート
突然ですか、愛知県小牧市の「ピーチライナー(正式名称:桃花台新交通桃花台線)」をご存じですか?名鉄小牧線の小牧駅と桃花台ニュータウンとの間を結ぶ新交通システムでしたが、経営難から2006年に廃止されてバス代替となりました。今回のバス乗車記は、バスが新交通システムからニュータウン輸送を引き継いだ珍しい事例である、あおい交通のピーチバスを取り上げたいと思います。
まずはピーチバスが発着する小牧駅へと向かいましょう。名古屋の中心である栄駅から地下鉄名城線の右回りで平安通駅へ。ここで2003年に開通した地下鉄上飯田線に乗り換えです。
乗車した犬山行きは名鉄の車両です。地下鉄上飯田線はわずか1駅のみですが、列車はそのまま名鉄小牧線に直通します。列車の乗り継ぎが良かった事もあって、栄から約30分で小牧駅に到着しました。
小牧駅を降りて最初に目に付いたのは、7年半前の2006年に廃止となったピーチライナーの小牧駅駅舎です。シャッターが閉じられていますが、桃花台線と書かれた駅名看板がそのまま残されていました。
早朝の小牧駅東口バスターミナル。背後に見える高架はピーチライナーのものです。
こちらがピーチライナー廃止による代替路線、あおい交通が運行するピーチバスです。車両は日野ブルーリボン2、桃花台ニュータウン内の大城行きです。
車内の様子。
6時25分、大城行きは発車しました。国道155号線バイパスを走行しています。ピーチライナー代替路線だけあって、基本的にピーチライナーの高架に沿って走行する場所が大半を占めます。小牧駅から桃花台ニュータウンまでは約5km。そんなに距離はありません。
上末停留所に到着。前方にはピーチライナー上末駅の構造物がそのまま残されていました。2006年に廃止されてから7年半が経過していますが、撤去はされていません。残されたインフラをどのように活用するのでしょうか。
2014年3月現在の愛知県の方針では、今走行している国道155線バイパス部分の高架線は、自動車(車両重量5トンまでの小型車両)の専用道路に活用して道路の混雑緩和を図り、その混雑緩和された道路にはバスレーンを設置してバスの速達性を確保しようする方針が示されました。ピーチライナーのインフラは耐震性の向上した昭和55年以降の基準で造られており、更に小型車両が相互通行可能なのだとか。ちなみに国道155号線バイパス部分以外のインフラは撤去し、自転車や歩行者の専用道や、公園などに活用する方針との事です。
個人的には、同じ愛知県を走る「ゆとりーとライン」のようなガイドウェイバスに転用してはどうかとも思いましたが、2005年に桃花台線あり方検討会がピーチライナー再生・存続に向けた新システムの検討を行っており、構造の違い等からガイドウェイバスでは概算事業費が56億円かかるという試算を行っています。現在はピーチライナーを運営していた事業者自体がないので一から事業者を設立しなければなりませんが、インフラは決して安価に転用できるようなものではないようです。
桃花台ニュータウンに入りました。ピーチライナーは桃花台西駅、桃花台センター駅、桃花台東駅と続きます。ピーチバスのメイン系統である循環コースも、ほぼそのルートで運行されますが、平日の朝は別系統も運行されます。系統を分けているのは、単純に桃花台ニュータウン内を循環すると、場所によっては小牧駅まで時間がかかってしまう短所を軽減しているのではないでしょうか。
私が乗車している便は循環コースではないので桃花台西、桃花台センター方面は経由せず、直接大城へと向かいます。城山4丁目では小牧駅前行きのピーチバスとすれ違いました。この辺りはピーチライナーがバス化されて駅まで移動する必要がなくなったので、利便性が向上した地区ではないかと思われます。平日の日中には小牧駅前から更に小牧市役所前まで運行区間を延長している便もあり、バス化による長所を生かしているようです。
小牧駅前を発車して23分、終点の大城に到着しました。ここはピーチライナーの終点、桃花台東駅の跡地です。
ピーチライナーは昭和40年代における名古屋都市圏の人口急増の受け皿の一つとして、愛知県が小牧市に開発する桃花台ニュータウンの交通インフラとして計画されました。桃花台ニュータウンの計画人口は当初54000人でしたが、2度の計画変更により現在の40000人に下方修正されています。ちなみに2004年現在の実際の人口は約28000人で、今後も30000人程度で増加は止まるのではないかと予測されています。(2005年の桃花台線のあり方検討会の資料より抜粋)
当初想定された桃花台ニュータウンから名古屋市内への移動ルートは、ピーチライナーと名鉄小牧線に乗り継ぐ、今回私が乗車したルートでした。しかし、ピーチライナーの開業当初は地下鉄上飯田線が開通しておらず、名鉄小牧線で上飯田駅まで出てもバスに乗り継ぐか、地下鉄平安通駅までの1駅分を歩く必要がありました。利便性の悪さを嫌ってか、桃花台ニュータウンの隣の春日井市にあるJR春日井駅へ自家用車で移動して、JR中央線で名古屋市内へと向かうルートも開拓されます。(後にバス路線も開設されました)
ピーチライナーは桃花台ニュータウンの足として一定の役割を果たしてきましたが、景気の低迷や、予測を下回る利用者数などによる厳しい経営が続き、運営資金の枯渇が現実味を帯び始めます。可能な限りの経費の削減と共に、ピーチライナー再生・存続に向けた新システム検討という道も検討されたものの、最終的には愛知県と小牧市間で「これ以上の公的支援は行えない」という結論が出され、2006年に廃止となりました。
↑桃花台ニュータウンを走行するピーチバス
今回、桃花台ニュータウンを訪問するにあたり、事前にネットでピーチバスを下調べしました。しかし、コースが複数あったり、ニュータウン内は循環系統だったりと、私のような初めて訪れる人間にとって、路線図を分岐無く一本線で描けるピーチライナーのような単純明快なわかりやすさはありませんでした。でも、それは利用客の大部分を占めるニュータウン住民が利用しやすいようコースや経路が組まれているからであって、ピーチライナー時代より地域に密接した交通機関になったという見方をする事が出来ます。
最後になりますが、これから全国的に訪れると予測されている少子高齢化による人口減少は、桃花台ニュータウンも例外ではないと思われます。ニュータウン住民の減少は、ピーチバスの利用者数にも影響してくるかもしれません。バスは移動手段としてニュータウンでの生活の質を提供している面もあります。あおい交通だけではありませんが、ニュータウンのバス事業者として、どのようにしたら桃花台ニュータウンに「新たに住んでもらえるか」、そして「住み続けてもらえるか」、そのような考え方も将来の課題の一つなのかもしれないと思いました。
※追記:2014年4月のダイヤ改正が行われ、複数あったルートは一つに統一されました。
<撮影2014年3月>
小牧駅前 6時25分発 大城ルート
突然ですか、愛知県小牧市の「ピーチライナー(正式名称:桃花台新交通桃花台線)」をご存じですか?名鉄小牧線の小牧駅と桃花台ニュータウンとの間を結ぶ新交通システムでしたが、経営難から2006年に廃止されてバス代替となりました。今回のバス乗車記は、バスが新交通システムからニュータウン輸送を引き継いだ珍しい事例である、あおい交通のピーチバスを取り上げたいと思います。
まずはピーチバスが発着する小牧駅へと向かいましょう。名古屋の中心である栄駅から地下鉄名城線の右回りで平安通駅へ。ここで2003年に開通した地下鉄上飯田線に乗り換えです。
乗車した犬山行きは名鉄の車両です。地下鉄上飯田線はわずか1駅のみですが、列車はそのまま名鉄小牧線に直通します。列車の乗り継ぎが良かった事もあって、栄から約30分で小牧駅に到着しました。
小牧駅を降りて最初に目に付いたのは、7年半前の2006年に廃止となったピーチライナーの小牧駅駅舎です。シャッターが閉じられていますが、桃花台線と書かれた駅名看板がそのまま残されていました。
早朝の小牧駅東口バスターミナル。背後に見える高架はピーチライナーのものです。
こちらがピーチライナー廃止による代替路線、あおい交通が運行するピーチバスです。車両は日野ブルーリボン2、桃花台ニュータウン内の大城行きです。
車内の様子。
6時25分、大城行きは発車しました。国道155号線バイパスを走行しています。ピーチライナー代替路線だけあって、基本的にピーチライナーの高架に沿って走行する場所が大半を占めます。小牧駅から桃花台ニュータウンまでは約5km。そんなに距離はありません。
上末停留所に到着。前方にはピーチライナー上末駅の構造物がそのまま残されていました。2006年に廃止されてから7年半が経過していますが、撤去はされていません。残されたインフラをどのように活用するのでしょうか。
2014年3月現在の愛知県の方針では、今走行している国道155線バイパス部分の高架線は、自動車(車両重量5トンまでの小型車両)の専用道路に活用して道路の混雑緩和を図り、その混雑緩和された道路にはバスレーンを設置してバスの速達性を確保しようする方針が示されました。ピーチライナーのインフラは耐震性の向上した昭和55年以降の基準で造られており、更に小型車両が相互通行可能なのだとか。ちなみに国道155号線バイパス部分以外のインフラは撤去し、自転車や歩行者の専用道や、公園などに活用する方針との事です。
個人的には、同じ愛知県を走る「ゆとりーとライン」のようなガイドウェイバスに転用してはどうかとも思いましたが、2005年に桃花台線あり方検討会がピーチライナー再生・存続に向けた新システムの検討を行っており、構造の違い等からガイドウェイバスでは概算事業費が56億円かかるという試算を行っています。現在はピーチライナーを運営していた事業者自体がないので一から事業者を設立しなければなりませんが、インフラは決して安価に転用できるようなものではないようです。
桃花台ニュータウンに入りました。ピーチライナーは桃花台西駅、桃花台センター駅、桃花台東駅と続きます。ピーチバスのメイン系統である循環コースも、ほぼそのルートで運行されますが、平日の朝は別系統も運行されます。系統を分けているのは、単純に桃花台ニュータウン内を循環すると、場所によっては小牧駅まで時間がかかってしまう短所を軽減しているのではないでしょうか。
私が乗車している便は循環コースではないので桃花台西、桃花台センター方面は経由せず、直接大城へと向かいます。城山4丁目では小牧駅前行きのピーチバスとすれ違いました。この辺りはピーチライナーがバス化されて駅まで移動する必要がなくなったので、利便性が向上した地区ではないかと思われます。平日の日中には小牧駅前から更に小牧市役所前まで運行区間を延長している便もあり、バス化による長所を生かしているようです。
小牧駅前を発車して23分、終点の大城に到着しました。ここはピーチライナーの終点、桃花台東駅の跡地です。
ピーチライナーは昭和40年代における名古屋都市圏の人口急増の受け皿の一つとして、愛知県が小牧市に開発する桃花台ニュータウンの交通インフラとして計画されました。桃花台ニュータウンの計画人口は当初54000人でしたが、2度の計画変更により現在の40000人に下方修正されています。ちなみに2004年現在の実際の人口は約28000人で、今後も30000人程度で増加は止まるのではないかと予測されています。(2005年の桃花台線のあり方検討会の資料より抜粋)
当初想定された桃花台ニュータウンから名古屋市内への移動ルートは、ピーチライナーと名鉄小牧線に乗り継ぐ、今回私が乗車したルートでした。しかし、ピーチライナーの開業当初は地下鉄上飯田線が開通しておらず、名鉄小牧線で上飯田駅まで出てもバスに乗り継ぐか、地下鉄平安通駅までの1駅分を歩く必要がありました。利便性の悪さを嫌ってか、桃花台ニュータウンの隣の春日井市にあるJR春日井駅へ自家用車で移動して、JR中央線で名古屋市内へと向かうルートも開拓されます。(後にバス路線も開設されました)
ピーチライナーは桃花台ニュータウンの足として一定の役割を果たしてきましたが、景気の低迷や、予測を下回る利用者数などによる厳しい経営が続き、運営資金の枯渇が現実味を帯び始めます。可能な限りの経費の削減と共に、ピーチライナー再生・存続に向けた新システム検討という道も検討されたものの、最終的には愛知県と小牧市間で「これ以上の公的支援は行えない」という結論が出され、2006年に廃止となりました。
↑桃花台ニュータウンを走行するピーチバス
今回、桃花台ニュータウンを訪問するにあたり、事前にネットでピーチバスを下調べしました。しかし、コースが複数あったり、ニュータウン内は循環系統だったりと、私のような初めて訪れる人間にとって、路線図を分岐無く一本線で描けるピーチライナーのような単純明快なわかりやすさはありませんでした。でも、それは利用客の大部分を占めるニュータウン住民が利用しやすいようコースや経路が組まれているからであって、ピーチライナー時代より地域に密接した交通機関になったという見方をする事が出来ます。
最後になりますが、これから全国的に訪れると予測されている少子高齢化による人口減少は、桃花台ニュータウンも例外ではないと思われます。ニュータウン住民の減少は、ピーチバスの利用者数にも影響してくるかもしれません。バスは移動手段としてニュータウンでの生活の質を提供している面もあります。あおい交通だけではありませんが、ニュータウンのバス事業者として、どのようにしたら桃花台ニュータウンに「新たに住んでもらえるか」、そして「住み続けてもらえるか」、そのような考え方も将来の課題の一つなのかもしれないと思いました。
※追記:2014年4月のダイヤ改正が行われ、複数あったルートは一つに統一されました。
<撮影2014年3月>