あおい交通 桃花台バス
桃花台センター 8時52分発 桃花台じゅんかん【西】右回り
ここは愛知県小牧市。桃花台ニュータウンの中心地、桃花台センターです。大きな商業施設がいくつもあり、2006年に廃止になったピーチライナー(正式名称:桃花台新交通桃花台線)の桃花台センター駅もこの中にありました。
廃止から7年半が経過した今でもインフラ設備が残るピーチライナー。平行する道路には代替路線であるピーチバスが走行するのが見えました。
ニュータウンの開発時、主となる公共交通機関として想定されていたのはピーチライナーでした。しかし、2003年まで地下鉄上飯田線が開通していなかった事もあり、ピーチライナーを利用して名古屋中心部へと向かうルートは御世辞にも利便性が良いとは言えない状況でした。そこで、桃花台ニュータウンから直線距離で約5km。春日井市の春日井駅へ自家用車で送迎してもらったり、駐車したりして、JR中央線で名古屋中心部へと向かうルートが開拓されます。
当然、桃花台ニュータウンと春日井駅を結ぶバス路線の要望は行政にありましたし、この区間に需要がある事もわかっていました。しかし、このエリアにバス路線を持つ名古屋鉄道(現在の名鉄バス)は路線バスを運行する事はしませんでした。いや、しなかったというよりも、出来なかったの方が正しい表現なのかもしれません。何故ならば、桃花台ニュータウンを開発した行政、バス路線を受け持つ名古屋鉄道、共にピーチライナーに出資をしていたためです。
苦しい経営を続けているピーチライナーの乗客を更に減らすバス路線を作る事が出来ないのは、出資した側の立場を考えれば理解できなくもありませんし、それは行政も同様です。唯一、桃花台ニュータウンとJR中央線の高蔵寺駅を結ぶバス路線が名古屋鉄道によって開設されましたが、それはピーチライナーが高蔵寺駅までの延伸計画があったための先行路線という理由からでした。
この話の続きは、有名な「住民組織と地元の貸切バス事業者が協力して走らせた桃花台バス」へと繋がります。
・・・と、ここで乗車する桃花台バスの発車時刻が近づいてきたので停留所へと向かいましょう。話の続きはまた後程。
あおい交通の桃花台バスが桃花台センターに到着しました。朝コース、夜コースでは大型バスで運行していますが、昼コースではこのような小型バスでの運行です。運賃は前払い。春日井駅前までの300円を運賃箱に投入して車内へと進みました。既にニュータウンの西側を循環しているので車内には複数の乗客の姿がありましたが、一番前の座席が空いていたので座らせてもらいました。
しばらくはニュータウン内の停留所が続きます。2014年3月現在、桃花台ニュータウン〜春日井駅間を結ぶ路線バスは桃花台バスと名鉄バスの2路線がありますが、この付近は桃花台バス単独の停留所です。各停留所で乗客が乗車してきましたが、半分以上の乗客は回数券を利用していました。
乗客を集めた桃花台バスはニュータウンを離れます。
小牧市の隣、春日井市に入りました。
ニュータウン方面に向かう桃花台バスとすれ違います。
春日井市に入りましたが、乗車は続きます。中原停留所に到着する時、対向車線にバスが見えました。再び桃花台バスでしょうか?いや、行き先表示を見ると、あおい交通が運行している名古屋造形大学と春日井駅を結ぶスクールバスのようです。
…さて、「住民組織と地元の貸切バス事業者が協力して走らせた桃花台バス」の続きです。
2002年2月に乗合バス事業の規制緩和が行われ、事業の開始が免許制から許可制に変更されると、公示された要件を満たせば乗合バス事業への参入が可能となりました。この規制緩和が始まる前年、あおい交通に桃花台ニュータウンと春日井駅を結ぶ路線バスを運行出来ないかと要望が寄せられます。この時、あおい交通が最初に思いついたのが、既に受託運行していた名古屋造形大学(当時の名称は名古屋造形芸術大学)と春日井駅を結ぶスクールバスの活用でした。
大学は桃花台ニュータウンのそばにあります。ニュータウンから春日井駅へ住民を運送し、春日井駅に到着後は大学まで学生を運送する方法が考えられたのです。しかし、この方式には問題があります。スクールバスは貸切契約なので、往路は乗合、復路は貸切…のように往復で運行形態が異なる方式は難しいとされました。ではどうするか?
解決の鍵となったのは住民組織でした。任意団体の住民組織「桃花台バス運営会」が設立され、あおい交通と貸切契約を結ぶ事で往復とも貸切バスとして運行する事が出来たのです。運営会の会員になればバスに乗車出来る仕組みです。
その後、中部運輸局から純粋な貸切ではなく21条バス(貸切バスの乗合許可)で運行するようアドバイスがあり、2002年4月に21条バスとして運行を開始しました。
上の画像は朝コースとして運行している現在の桃花台バスです。
朝コース運行後は名古屋造形大学と春日井駅を結ぶスクールバスとして運行。どちらもナンバーが同じなのがわかります。
当初は21条バスとして運行していた桃花台バスですが、半年後の10月からは一般的な乗合バス(4条バス)へと移行します。「桃花台バス運営会」の必要性はなくなり、会自体も発展解消しました。
現在のスクールバスと桃花台バスとの共用は時間帯により行われています。スクールバスを運行する時間帯の桃花台バスは小型バスで運行をしています。
終点の春日井駅前に到着しました。
2006年にピーチナイナーが廃止されると、しがらみが無くなったのか名鉄バスも桃花台ニュータウン〜春日井駅間の乗合バスの運行を開始して、この区間はダブルトラックになりました。2002年の規制緩和以前の乗合バス事業は、過当競争によるサービスの質や安全性の低下を防止するために需給調整(事実上のエリア独占)を行っていたので、新規に乗合バス事業に参入するのは難しい状況でした。統率がとれるなど、しがらみによる利点も否定できませんが、今の桃花台バスがあるのは「スクールバスの存在」と「住民組織との協力」、そして「規制緩和」があったからです。
春日井駅を発着するJR中央線。名古屋駅と春日井駅間を約22分で結んでいます。
…今回、私は初めて桃花台ニュータウンを訪れました。軌道系公共交通が廃止されてしまった街ですが、ピーチバスはピーチライナーよりも「地域に密接した路線」でした。将来はピーチライナー廃線跡のインフラを再利用した「バス速達性向上」という県の方針もあります。それから、ニュータウン内からは高速バスも運行されていて、乗り換えなく名古屋の中心部に向かう事が出来ます。また、ニュータウン内を走行する中央自動車道の桃花台バスストップでは、ピーチライナー車両基地の跡地を利用した「バス停利用者の送迎用ロータリーと民間のパーク&ライド施設」が稼働していました。そして最後に桃花台バス。需要が見込めながらも、しがらみによって運行出来なかった区間を「住民組織との協力」によってバスが開通しました。
桃花台ニュータウンの交通は、様々な歴史を経て磨き研ぎ澄まされ、今の形になりました。
たとえ話ですが、宝石を輝かせるためには原石を磨く事が重要と言います。時間が経過して曇ってしまった宝石も磨けば再び光り輝きます。交通も同様に、磨く事が大事なのではないでしょうか。自ら進んで磨いたり、磨かざるを得なかったりと、様々なケースがあるでしょうが、どちらにせよ磨かれた宝石は、利用者に愛され最後には地域の宝となるかもしれません。
<撮影2014年3月>
参考文献:地方分権とバス交通 勁草書房 寺田一薫
桃花台センター 8時52分発 桃花台じゅんかん【西】右回り
ここは愛知県小牧市。桃花台ニュータウンの中心地、桃花台センターです。大きな商業施設がいくつもあり、2006年に廃止になったピーチライナー(正式名称:桃花台新交通桃花台線)の桃花台センター駅もこの中にありました。
廃止から7年半が経過した今でもインフラ設備が残るピーチライナー。平行する道路には代替路線であるピーチバスが走行するのが見えました。
ニュータウンの開発時、主となる公共交通機関として想定されていたのはピーチライナーでした。しかし、2003年まで地下鉄上飯田線が開通していなかった事もあり、ピーチライナーを利用して名古屋中心部へと向かうルートは御世辞にも利便性が良いとは言えない状況でした。そこで、桃花台ニュータウンから直線距離で約5km。春日井市の春日井駅へ自家用車で送迎してもらったり、駐車したりして、JR中央線で名古屋中心部へと向かうルートが開拓されます。
当然、桃花台ニュータウンと春日井駅を結ぶバス路線の要望は行政にありましたし、この区間に需要がある事もわかっていました。しかし、このエリアにバス路線を持つ名古屋鉄道(現在の名鉄バス)は路線バスを運行する事はしませんでした。いや、しなかったというよりも、出来なかったの方が正しい表現なのかもしれません。何故ならば、桃花台ニュータウンを開発した行政、バス路線を受け持つ名古屋鉄道、共にピーチライナーに出資をしていたためです。
苦しい経営を続けているピーチライナーの乗客を更に減らすバス路線を作る事が出来ないのは、出資した側の立場を考えれば理解できなくもありませんし、それは行政も同様です。唯一、桃花台ニュータウンとJR中央線の高蔵寺駅を結ぶバス路線が名古屋鉄道によって開設されましたが、それはピーチライナーが高蔵寺駅までの延伸計画があったための先行路線という理由からでした。
この話の続きは、有名な「住民組織と地元の貸切バス事業者が協力して走らせた桃花台バス」へと繋がります。
・・・と、ここで乗車する桃花台バスの発車時刻が近づいてきたので停留所へと向かいましょう。話の続きはまた後程。
あおい交通の桃花台バスが桃花台センターに到着しました。朝コース、夜コースでは大型バスで運行していますが、昼コースではこのような小型バスでの運行です。運賃は前払い。春日井駅前までの300円を運賃箱に投入して車内へと進みました。既にニュータウンの西側を循環しているので車内には複数の乗客の姿がありましたが、一番前の座席が空いていたので座らせてもらいました。
しばらくはニュータウン内の停留所が続きます。2014年3月現在、桃花台ニュータウン〜春日井駅間を結ぶ路線バスは桃花台バスと名鉄バスの2路線がありますが、この付近は桃花台バス単独の停留所です。各停留所で乗客が乗車してきましたが、半分以上の乗客は回数券を利用していました。
乗客を集めた桃花台バスはニュータウンを離れます。
小牧市の隣、春日井市に入りました。
ニュータウン方面に向かう桃花台バスとすれ違います。
春日井市に入りましたが、乗車は続きます。中原停留所に到着する時、対向車線にバスが見えました。再び桃花台バスでしょうか?いや、行き先表示を見ると、あおい交通が運行している名古屋造形大学と春日井駅を結ぶスクールバスのようです。
…さて、「住民組織と地元の貸切バス事業者が協力して走らせた桃花台バス」の続きです。
2002年2月に乗合バス事業の規制緩和が行われ、事業の開始が免許制から許可制に変更されると、公示された要件を満たせば乗合バス事業への参入が可能となりました。この規制緩和が始まる前年、あおい交通に桃花台ニュータウンと春日井駅を結ぶ路線バスを運行出来ないかと要望が寄せられます。この時、あおい交通が最初に思いついたのが、既に受託運行していた名古屋造形大学(当時の名称は名古屋造形芸術大学)と春日井駅を結ぶスクールバスの活用でした。
大学は桃花台ニュータウンのそばにあります。ニュータウンから春日井駅へ住民を運送し、春日井駅に到着後は大学まで学生を運送する方法が考えられたのです。しかし、この方式には問題があります。スクールバスは貸切契約なので、往路は乗合、復路は貸切…のように往復で運行形態が異なる方式は難しいとされました。ではどうするか?
解決の鍵となったのは住民組織でした。任意団体の住民組織「桃花台バス運営会」が設立され、あおい交通と貸切契約を結ぶ事で往復とも貸切バスとして運行する事が出来たのです。運営会の会員になればバスに乗車出来る仕組みです。
その後、中部運輸局から純粋な貸切ではなく21条バス(貸切バスの乗合許可)で運行するようアドバイスがあり、2002年4月に21条バスとして運行を開始しました。
上の画像は朝コースとして運行している現在の桃花台バスです。
朝コース運行後は名古屋造形大学と春日井駅を結ぶスクールバスとして運行。どちらもナンバーが同じなのがわかります。
当初は21条バスとして運行していた桃花台バスですが、半年後の10月からは一般的な乗合バス(4条バス)へと移行します。「桃花台バス運営会」の必要性はなくなり、会自体も発展解消しました。
現在のスクールバスと桃花台バスとの共用は時間帯により行われています。スクールバスを運行する時間帯の桃花台バスは小型バスで運行をしています。
終点の春日井駅前に到着しました。
2006年にピーチナイナーが廃止されると、しがらみが無くなったのか名鉄バスも桃花台ニュータウン〜春日井駅間の乗合バスの運行を開始して、この区間はダブルトラックになりました。2002年の規制緩和以前の乗合バス事業は、過当競争によるサービスの質や安全性の低下を防止するために需給調整(事実上のエリア独占)を行っていたので、新規に乗合バス事業に参入するのは難しい状況でした。統率がとれるなど、しがらみによる利点も否定できませんが、今の桃花台バスがあるのは「スクールバスの存在」と「住民組織との協力」、そして「規制緩和」があったからです。
春日井駅を発着するJR中央線。名古屋駅と春日井駅間を約22分で結んでいます。
…今回、私は初めて桃花台ニュータウンを訪れました。軌道系公共交通が廃止されてしまった街ですが、ピーチバスはピーチライナーよりも「地域に密接した路線」でした。将来はピーチライナー廃線跡のインフラを再利用した「バス速達性向上」という県の方針もあります。それから、ニュータウン内からは高速バスも運行されていて、乗り換えなく名古屋の中心部に向かう事が出来ます。また、ニュータウン内を走行する中央自動車道の桃花台バスストップでは、ピーチライナー車両基地の跡地を利用した「バス停利用者の送迎用ロータリーと民間のパーク&ライド施設」が稼働していました。そして最後に桃花台バス。需要が見込めながらも、しがらみによって運行出来なかった区間を「住民組織との協力」によってバスが開通しました。
桃花台ニュータウンの交通は、様々な歴史を経て磨き研ぎ澄まされ、今の形になりました。
たとえ話ですが、宝石を輝かせるためには原石を磨く事が重要と言います。時間が経過して曇ってしまった宝石も磨けば再び光り輝きます。交通も同様に、磨く事が大事なのではないでしょうか。自ら進んで磨いたり、磨かざるを得なかったりと、様々なケースがあるでしょうが、どちらにせよ磨かれた宝石は、利用者に愛され最後には地域の宝となるかもしれません。
<撮影2014年3月>
参考文献:地方分権とバス交通 勁草書房 寺田一薫