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鎌ヶ谷観光バス 生活バスちばにう

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鎌ヶ谷観光バス 生活バスちばにう
千葉ニュータウン中央駅北口 8時40分発

2014年6月9日、千葉ニュータウン中央駅〜新鎌ケ谷駅間を結ぶ乗合バス「生活バスちばにう」が運行を開始しました。千葉ニュータウンの主となる公共交通機関は北総鉄道ですが、運賃が距離の割に他社と比べて高額という地域事情があります。そこで鎌ヶ谷観光バスが、住民組織のサポートを受けて北総鉄道よりも安い運賃300円で同区間を結びました。



千葉ニュータウン中央駅北口に停車しているのは新車の中型バス・エルガミオ。今回の路線開設に伴い、2台の新車が用意されています。



それでは車内へと進みましょう。運賃は前乗り前払い方式を採用しています。運賃300円を実現するためには低コストである必要があり、PASMOやSuicaなどのICカードは使えません。運賃箱に100円玉を3枚投入した瞬間、投入口のプラスチックに硬貨が当たるジャラジャラッ!という懐かしい音が聞こえてきました。今やコンビニや飲料の自動販売機でも対応しているICカードが使えないのは不便だとは思いますが、コストを下げるためという理由を聞くと納得もしてしまいます。

以前、住民組織が鎌ヶ谷観光バスの貸切バスを使用して社会実験を行った経緯から「生活バスちばにう」の運営は住民主導という印象を持ちますが、現在は鎌ヶ谷観光バスが運営する事業者主導です。住民組織はバスの情報配信やPRなどのサポートを担当しています。私が乗車したのは開通初日という事もあってか、スタッフが車内で乗客への案内をしていました。バスの運行に関し、調べた限りでは補助制度の活用や、沿線企業の支援などはありません。住民組織のサポートによる利用促進が「生活バスちばにう」の安定した運営への大きな役目を担う事になりそうです。



発車して、しばらくすると千葉ニュータウン中央駅のホーム脇を通過しました。車内の乗客達は、昨日まではあの場所に立っていたのかな…そう考えると、なんだか不思議な気持ちになります。バスの運行開始によって移動の選択肢が広がりました。



バスが走行する道路は鉄道と平行しています。ふと、進行方向右手を見ると西馬込行きの普通列車が追い越していきました。以前、ちばレインボーバス「高花線」の乗車記でも書きましたが、所要時間の点ではバスは鉄道にかないません。千葉ニュータウン中央駅〜新鎌ケ谷駅間のバスの所要時間は20〜25分ですが、鉄道は普通列車で約11分、アクセス特急なら約7分と大きな差が付きます。



しかし「生活バスちばにう」が有利な点は、何といっても300円の低運賃です。平行する北総鉄道は同区間を560円(ICカードなら556円)かかります。片道だけでこれだけ差がつくので往復で計算すると結構な差になります。(※鉄道運賃表は千葉ニュータウン中央駅:2014年6月現在)

ただ、北総鉄道の運賃が他社に比べて高額なのは事実ですが、決して悪意をもって利益をだそうとしている訳ではありません。北総鉄道の運賃が高額なのは、建設時の大きな借金を返済していく仕組みがあるからです。

当初の千葉ニュータウンの計画人口は34万人でした。しかし、計画変更により現在の計画人口は14万3300人と大幅に減っています。それでいて2013年の実際の人口は約9万3500人。今も人口は増加している街ですが、借金を返し、かつ安定した運営をしていくために高額な運賃の設定をしなければならない現状があります。

「いわゆる私鉄並みの運賃水準は無理でも、ある程度は北総鉄道の値下げは可能ではないか?」「いや、今は金利が低いので助かっているが、将来はわからない。」「線路使用料は適切なのか?」「施設を保有する事業者と運営する事業者を分けて北総鉄道の負担を減らせないか?」

…様々な主張や考えがあります。簡単に答えの出る問題ではありません。



ところで、私は千葉ニュータウン中央駅に京成電鉄「成田スカイアクセス線」でやって来ました。

えっ?千葉ニュータウン中央駅は「北総鉄道」じゃないの?

実はどちらも正解です。同じ線路を走行していますが、京成電鉄の千葉ニュータウン中央駅でもあり、北総鉄道の千葉ニュータウン中央駅でもあるのです。なのでスカイライナーやアクセス特急は北総鉄道ではなく、京成電鉄の乗務員さんが乗務しています。



「アクセス特急」は最高速度120km/hの速達列車です。京成電鉄が乗務員や車両を負担する事によって、北総鉄道単独では困難であろう約25往復の優等列車増発を実現し、千葉ニュータウンの利便性向上を図る事が出来ました。もちろんアクセス特急が停車しない駅もあるので全駅が恩恵を受けている訳ではありませんが、逆に直接でなくても結果的に普通列車の車内が空いたなどで恩恵を受けた場所もあるかもしれません。



北総鉄道を考える時に運賃面だけで考えると不満の多い鉄道になるかと思いますが、京成電鉄を含めた利便性も加えると、もしかしたら違った答えも出るかもしれません。


↑最後尾から後ろを向いて撮影

話が横道にそれてしまいました。バスは順調に走行しています。

さて、この路線を認可申請するにあたり、肝となったのは「地域公共交通会議」でした。 この会議は自治体が主催し、地域公共交通のあり方について広く議論する場です。バス事業者や道路管理者、警察、学識経験者などが参加し、会議で合意を得られると、国への手続き期間の短縮や最低車両数の制限がなくなるメリットがあります。

乗合バス事業を行うには「5両の常用車プラス1両の予備車」の計6台のバスが必要です。今回、鎌ヶ谷観光バスが「生活バスちばにう」に用意出来るバスは低コストを実現するために2台のみ。鎌ヶ谷観光バスは鎌ヶ谷市のコミュニティバスを受託運行していたので既に2台の乗合バスを所有していました。しかし、それを足しても4台。まだ足りません。そこで印西市と鎌ヶ谷市で開催された「地域公共交通会議」で最低車両数の制限をクリアするための合意をもらう必要があったのです。

この「地域公共交通会議」は道路運送法の枠組みです。よって鉄道事業者は入りません。今回のように鉄道を念頭に置いたバス路線の自治体会議に鉄道が入らないのは不思議な印象もありますが、「地域公共交通会議」の限界でもあります。

「生活バスちばにう」の運営が成功したならば、「うちの街は急行がとまらない」「本数が少ない」「いつも混んでて座れない」…このような理由で最低車両数の制限をクリアして乗合バスの運行を出来ないかと考える事業者が、他の地域で出てくるかもしれません。(※それが良いとか悪いとかという意味ではないです)


↑最後尾から後ろを向いて撮影

さて、終点の新鎌ケ谷駅イオン前が近づいてきました。「生活バスちばにう」は北口のロータリーには入らず、新京成電鉄の踏切を渡って南口のロータリーに到着します。今は改札口に向かうにはバスが渡った踏切を再び渡らなくてはなりませんが、将来は新京成電鉄が高架になり、南口からも改札口に行きやすくなるので、この問題は時間が解決してくれそうです。



新鎌ケ谷駅イオン前に到着後は行き先表示を「千葉ニュータウン中央駅北口」に変え、数分後に発車時刻となりました。



…これからの日本は、少子高齢化、人口減少の時代が来ると予測されています。将来、そのような状況で街を維持・発展させるために、限りある人口を巡って街同士の競争、ニュータウン同士の競争が起こる可能性はないでしょうか。そして、その時に千葉ニュータウンはどのように評価されるのか。

冒頭でも書きましたが、千葉ニュータウンの主となる公共交通機関は北総鉄道です。今回、鎌ヶ谷観光バスが千葉ニュータウン中央駅〜新鎌ケ谷駅間に、鉄道と平行する乗合バスの運行を開始しました。この地域の乗合バス事業者である、ちばレインボーバスも対抗してか、千葉ニュータウン中央駅から発着する高花線を土休日のみ新鎌ケ谷駅まで延長し、同区間を300円(ICカードでは299円)で運行開始するなど「生活バスちばにう」がキッカケになり、地域の交通が活性化し始めています。

実は、千葉ニュータウンでの公共交通の競争は今回が初めてではありません。鉄道が運行していない時間帯では、既に成田空港交通と平和交通が東京〜千葉ニュータウン間の深夜急行バスをそれぞれ運行するなど競争が起きています。

一般的に競争が起こると、利用者には利益となるケースが多いです。運賃面だけが競争ではありません。利便性やサービスといった面だって期待できます。今は競争によって千葉ニュータウン全体の交通を磨き研ぎ澄まし、街の価値を上げるチャンスかもしれません。もちろん、交通だけで価値が決まる訳ではありませんが、街の魅力の一つになると思います。



走り始めた「生活バスちばにう」。千葉ニュータウンの新しい足として、定着する事は出来るでしょうか。

<撮影2014年6月>

参考文献:
成功するコミュニティバス 学芸出版社 中部地域公共交通研究会
バスサービスハンドブック 土木学会

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