東北急行バス スイート号
東京駅八重洲通り23時55分発
こんばんわ。土曜日深夜の東京駅八重洲通りです。これから東北急行バスの「スイート号」で仙台へと向かいます。
まず最初に東北急行バスについて簡単に説明すると、東北急行バスが東京~仙台間の運行を開始したのは1962年。今から50年以上も昔の事です。東北自動車道どころか、日本に本格的な高速道路すら無かった時代なので、東京~仙台間の全てを一般国道で走行していました。
現在は東武グループに属していますが、当時は東武鉄道が中心となり、宮城交通、山形交通、福島交通、会津乗合自動車、関東自動車、東野交通の沿線乗合バス事業7社が出資した合弁会社でした。宇都宮や郡山、福島といった経由都市でも乗降が可能でしたが、東北自動道の開業により高速道路を走行する区間が増えると、停留所は徐々に整理されます。
今でも経由都市で乗降が可能なのは、金・土・日曜日のみ運行し、福島駅を経由する「スイート号」が唯一の存在。行き先表示に入る「福島経由」の文字がその証です。
それでは車内へと進みましょう。運転手さんの改札を受けてステップを上がると、独立3列シート(トイレ付き)が並んでいました。(終点到着時に撮影)
座席を紹介します。
深い角度のリクライニングシートにレッグレスト・・・
フットレスト(足のせ)を装備し、
座席には社名の入った毛布が置かれています。いわゆる一般的な3列の夜行バスといった感じです。
さて、バスは定刻通り23時55分に東京駅八重洲通りを発車しました。土曜日だけあってか、全ての座席が満席です。車内を見回すと、男性ばかりで、女性は2、3人程という比率。
そのうち、プシュ!と缶ビールを開ける音が聞こえてきました。そういえば、最近は”飲酒は御遠慮下さい”と明確に表示している高速バスのブランドを見かけるようになりました。東北急行バスは飲酒について、良いとも、ダメとも、公式にはアナウンスしていませんが、少なくとも今現在は周囲に迷惑をかけない限り、黙認してくれそうな雰囲気です。私はお酒に強くない人間なので「旅情を感じながら、車中でする晩酌は最高だろうな・・・」と、羨ましくなりました。
運転手さんは、自動放送の後に空調の案内などを肉声で補足説明します。休憩は佐野SAと安達太良SAを予定しているそうです。その後、5分程してから車内の灯りが徐々に落とされ、消灯となりました。一気に消灯しないので”これから消灯”とわかりますが、高速バス初心者だったら、その5分間で「いつ、消灯するのだろうか?」と不安になるかもしれません。事前に説明があるとベストでしょうか。
それでは、おやすみなさい・・・zzz
気持ちよく寝ていましたが、1時13分に佐野SAに到着しました。ここで約10分の休憩です。SAの駐車場には「スイート号」の他にも、東北へ向かう高速バスがいくつも休憩していました。
突然ですが、ここで問題です。この日、東京都内から仙台へ向かう高速乗合バスは全ブランド合わせて何台運行していたと思いますか?
・・・答えを書きます。私が乗車日の3週間前に調べた限りでは、昼行が22便、夜行が25便26台(2号車を確認)で、計47便48台でした。なんと、この晩だけでも26台のバスが東京都内から仙台へと向かっているのです。
東京~仙台間は、高速バスの競争が激しい区間です。そして、かつて存在した高速ツアーバスが大躍進した区間です。この区間の2008年度の輸送人員を見ると、高速ツアーバスは高速乗合バスの3倍近い輸送人員を記録していました。(※バス事業のあり方検討会資料より)
つまり、東京~仙台間は高速ツアーバスに完全にシェアをとられていたのです。
「どうして、この区間では、高速ツアーバスにシェアをとられてしまったのか?」
バスに戻り、再び消灯された車内で考えていました。
・・・2002年2月に乗合バスの規制緩和が行われました。規制緩和以前は国による需給調整が行われていたので、1つの区間に運行される乗合バスは原則1路線のみです。当時は東京駅~仙台駅間は東北急行バス。新宿駅~仙台駅間は東北急行バスとJRバス東北が共同で路線免許を持っていました。私は、この独占時代に、需要喚起して利用者を増やしておかなかった事が、シェアをとられた理由の一つではないかと考えてみました。
25便の夜行バスが都内から仙台へと向かう今晩ですが、2002年の規制緩和時にはどれだけの便数が出ていたのでしょうか。当時の時刻表を調べてみると、驚く事に東京都内から仙台への夜行バスは、東北急行バスが1便運行するだけでした。もちろん需要が多い日は2号車以降も出ていたと思われますが、たったの1便です。それでいて福島や白石、岩沼といった他の都市に停車して需要を分け合っていたのです。
2015年の常識で考えて、たった13年前で夜行バスが1便だけというのは、ハッキリ言って”ありえない”です。
・・・でも、当時の常識で考えると、13年後に夜行バスだけで25便を運行する時代が訪れるなんて、それも”ありえない”だったのではないでしょうか。
しかし、現実はご覧の通りです。
東京~仙台間は370km程度の距離という事もあり、昼行、夜行含めて当時は4列シート便しか運行していませんでした。(※但し、東北急行バスはシートピッチが広かった)そのために競争は価格面が主となります。もともと同区間の高速バス需要がほとんど掘り起こされていなかった事もあり、旅行会社が貸切バスを手配して運行する高速ツアーバスが台頭すると、低価格をウリに需要をどんどん掘り起こします。もちろん、東北急行バスも負けないよう、便数を増やしたり、低価格のバスを運行したりしました。しかし、決して大きな事業者ではない、東北急行バスに出来る事は限界があります。
東北急行バスが所有するバス車両は全19台。(※2014年10月現在)山形方面とか、関西方面とか、中国方面とか、北陸方面とか、全部やめて、東京~仙台間に集中投入したとしても、この晩の片道26台に届きません。それほどまでに大きい市場になってしまいました。
JRバスのように多くの地方支店があれば、地方高速路線と「ドリーム号」を組み合わせて運転手さんを確保する事が出来ます(運転手さんが折り返せる三ヶ日の存在が光ります)。また、一般路線バスを運行していれば、平日に比べて需要の落ちる土休日は一般路線バスの運転手さんを高速バスの応援として確保する事も出来ます。しかし、東北急行バスは東京と仙台に営業所があるだけ。しかも一般路線バスの運行はしていません。
かつて、高速ツアーバスは”高速だけやるので美味しいとこ取り”という批判がありました。しかし、高速路線しか運行していない東北急行バスを見る限り、本当にそうなのか?…とも考えてしまいます。
私は高速バスにかかわる方に、高速路線は「ハイリターンだけど、ハイリスク」と教えて頂いた事があります。たとえ、どんなに経営が苦しくても、地域の一般路線のように補助金が出る訳ではないし、競争も激しい。東北急行バスを見て、その意味がわかったような気がしました。
佐野SAを発車して約2時間が経過し、3時19分に安達太良SAに到着。最後の休憩です。
私が乗車している「スイート号」の隣には、格安便の「ニュースター号」が休憩していました。現在、東京~仙台間で東北急行バスが展開している高速バスは「スイート号」、「ニュースター号」、「ホリデースター号」の3種類があります。東北急行バスしか選択肢のない人には良いのかもしれませんが、楽天トラベルなどで他ブランドと比較した場合には、その差を判別するのは難しく、いっその事「ニュースター号 独立3列シート便」や、「ニュースター号 4列シート便」のように、ブランドを統一してもいいような気もしました。
・・・さてさて、安達太良SAを発車後は再び夢の世界へ・・・zzz
そのうち、車両の揺れが高速道路の単調としたものから、停止や発信、右左折に変わった事に気が付きました。どうやら高速道路を降りたようです。車内の灯りが点灯し、4時15分に福島駅東口に到着しました。降車したのは2人。ここから乗車する事も可能ですが、さすがにいないようです。
その後、5時25分に仙台駅前に到着。ここで、ほとんどの乗客が降車。
そして、その数分後には終点の仙台営業所へ。東京駅八重洲通りから約5時間半の旅でした。
高速バス激戦区の東京都内~仙台間ですが、東北急行バスの競争相手は高速ツアーバスだけではありませんでした。日本中央バスが新宿~仙台間、JRバス東北と京浜急行バスが横浜・品川~仙台間、京王電鉄バスと宮城交通が新宿~仙台・石巻間をそれぞれ運行したり、JRバス東北の「ドリームササニシキ号」が仙台を経由するようになったり・・・と、どんどん供給量は増えていきます。
しかし、乗合バス各社が路線開設や増便を行っても、結果的に高速ツアーバスがシェアを取る事が出来たのは、高速ツアーバスは貸切バスの手配が出来れば、いくらでも便数を増やす事が出来たからではないかと思います。もしも、「貸切バス型管理の受委託」のような制度が規制緩和以前から存在し、乗合バス事業者が需要の多い日に活用していたならば、もしかしたら違った結果もありえたのではないか?そんな気もしました。最近では、九州急行バスが長崎県営バスに委託をしたり、東北急行バスも「ニュースター号」の応援に同じ東武グループの関越交通が入るなど、一般路線を持たないバス事業者の戦い方が定まりつつあるようです。まもなく改正される予定の「乗合バス型管理の受委託」の新制度も有効なツールになるかもしれません。(※今まで委託者の車両しか使用できなかったが、改正後は受託者の車両でも使用出来るようになる予定)
現在の東北急行バスは、格安便の「ニュースター号」を主力に、需要の少ない時は独立3列シートを安く、需要の多い時は4列シートで需要に応え、さらに独立3列シートの「スイート号」、「ホリデースター号」でニーズに応えるなど、市場の需給状態に合わせた運行をしています。
道路運送法上の問題はなかったものの、乗合バスと比べて制約が少なかった高速ツアーバスとの競争。規制緩和による需給調整の撤廃を受け、参入してきた高速乗合バスとの競争。全19台しかバス車両を保有していない東北急行バスが、よくぞここまで競争に耐え、市場で戦える事業者になったものだと思います。
細かい課題はあると思うものの、東北急行バスはもっと評価されても良いのではないか?
そう感じた「スイート号」の旅でした。
<撮影2015年6月>
あとがき
…東北急行バスは大きなリスクをとらない堅実な事業者だと思います。もしも、長年の独占時代に増車、増員していれば、今も東京~仙台間で、シェアナンバー1のブランドだったかもしれません。それどころか、免許を所有していたのですから、東京~福島間や福島~仙台間のような区間でも共同運行・・・いや、単独で路線を持つ大きな高速バス事業者になっていた可能性もあります。
ただし、それはとったリスクが成功した場合の話です。一般路線を持たず、高速路線一本で勝負している事業者ですから、失敗した場合のリスクも大きい。同じような沿線出資のバス事業者であった、東名急行バスや常磐急行バスの末路を見ているからこそ、今も堅実な経営をしているのかもしれません。
東京駅八重洲通り23時55分発
こんばんわ。土曜日深夜の東京駅八重洲通りです。これから東北急行バスの「スイート号」で仙台へと向かいます。
まず最初に東北急行バスについて簡単に説明すると、東北急行バスが東京~仙台間の運行を開始したのは1962年。今から50年以上も昔の事です。東北自動車道どころか、日本に本格的な高速道路すら無かった時代なので、東京~仙台間の全てを一般国道で走行していました。
現在は東武グループに属していますが、当時は東武鉄道が中心となり、宮城交通、山形交通、福島交通、会津乗合自動車、関東自動車、東野交通の沿線乗合バス事業7社が出資した合弁会社でした。宇都宮や郡山、福島といった経由都市でも乗降が可能でしたが、東北自動道の開業により高速道路を走行する区間が増えると、停留所は徐々に整理されます。
今でも経由都市で乗降が可能なのは、金・土・日曜日のみ運行し、福島駅を経由する「スイート号」が唯一の存在。行き先表示に入る「福島経由」の文字がその証です。
それでは車内へと進みましょう。運転手さんの改札を受けてステップを上がると、独立3列シート(トイレ付き)が並んでいました。(終点到着時に撮影)
座席を紹介します。
深い角度のリクライニングシートにレッグレスト・・・
フットレスト(足のせ)を装備し、
座席には社名の入った毛布が置かれています。いわゆる一般的な3列の夜行バスといった感じです。
さて、バスは定刻通り23時55分に東京駅八重洲通りを発車しました。土曜日だけあってか、全ての座席が満席です。車内を見回すと、男性ばかりで、女性は2、3人程という比率。
そのうち、プシュ!と缶ビールを開ける音が聞こえてきました。そういえば、最近は”飲酒は御遠慮下さい”と明確に表示している高速バスのブランドを見かけるようになりました。東北急行バスは飲酒について、良いとも、ダメとも、公式にはアナウンスしていませんが、少なくとも今現在は周囲に迷惑をかけない限り、黙認してくれそうな雰囲気です。私はお酒に強くない人間なので「旅情を感じながら、車中でする晩酌は最高だろうな・・・」と、羨ましくなりました。
運転手さんは、自動放送の後に空調の案内などを肉声で補足説明します。休憩は佐野SAと安達太良SAを予定しているそうです。その後、5分程してから車内の灯りが徐々に落とされ、消灯となりました。一気に消灯しないので”これから消灯”とわかりますが、高速バス初心者だったら、その5分間で「いつ、消灯するのだろうか?」と不安になるかもしれません。事前に説明があるとベストでしょうか。
それでは、おやすみなさい・・・zzz
気持ちよく寝ていましたが、1時13分に佐野SAに到着しました。ここで約10分の休憩です。SAの駐車場には「スイート号」の他にも、東北へ向かう高速バスがいくつも休憩していました。
突然ですが、ここで問題です。この日、東京都内から仙台へ向かう高速乗合バスは全ブランド合わせて何台運行していたと思いますか?
・・・答えを書きます。私が乗車日の3週間前に調べた限りでは、昼行が22便、夜行が25便26台(2号車を確認)で、計47便48台でした。なんと、この晩だけでも26台のバスが東京都内から仙台へと向かっているのです。
東京~仙台間は、高速バスの競争が激しい区間です。そして、かつて存在した高速ツアーバスが大躍進した区間です。この区間の2008年度の輸送人員を見ると、高速ツアーバスは高速乗合バスの3倍近い輸送人員を記録していました。(※バス事業のあり方検討会資料より)
つまり、東京~仙台間は高速ツアーバスに完全にシェアをとられていたのです。
「どうして、この区間では、高速ツアーバスにシェアをとられてしまったのか?」
バスに戻り、再び消灯された車内で考えていました。
・・・2002年2月に乗合バスの規制緩和が行われました。規制緩和以前は国による需給調整が行われていたので、1つの区間に運行される乗合バスは原則1路線のみです。当時は東京駅~仙台駅間は東北急行バス。新宿駅~仙台駅間は東北急行バスとJRバス東北が共同で路線免許を持っていました。私は、この独占時代に、需要喚起して利用者を増やしておかなかった事が、シェアをとられた理由の一つではないかと考えてみました。
25便の夜行バスが都内から仙台へと向かう今晩ですが、2002年の規制緩和時にはどれだけの便数が出ていたのでしょうか。当時の時刻表を調べてみると、驚く事に東京都内から仙台への夜行バスは、東北急行バスが1便運行するだけでした。もちろん需要が多い日は2号車以降も出ていたと思われますが、たったの1便です。それでいて福島や白石、岩沼といった他の都市に停車して需要を分け合っていたのです。
2015年の常識で考えて、たった13年前で夜行バスが1便だけというのは、ハッキリ言って”ありえない”です。
・・・でも、当時の常識で考えると、13年後に夜行バスだけで25便を運行する時代が訪れるなんて、それも”ありえない”だったのではないでしょうか。
しかし、現実はご覧の通りです。
東京~仙台間は370km程度の距離という事もあり、昼行、夜行含めて当時は4列シート便しか運行していませんでした。(※但し、東北急行バスはシートピッチが広かった)そのために競争は価格面が主となります。もともと同区間の高速バス需要がほとんど掘り起こされていなかった事もあり、旅行会社が貸切バスを手配して運行する高速ツアーバスが台頭すると、低価格をウリに需要をどんどん掘り起こします。もちろん、東北急行バスも負けないよう、便数を増やしたり、低価格のバスを運行したりしました。しかし、決して大きな事業者ではない、東北急行バスに出来る事は限界があります。
東北急行バスが所有するバス車両は全19台。(※2014年10月現在)山形方面とか、関西方面とか、中国方面とか、北陸方面とか、全部やめて、東京~仙台間に集中投入したとしても、この晩の片道26台に届きません。それほどまでに大きい市場になってしまいました。
JRバスのように多くの地方支店があれば、地方高速路線と「ドリーム号」を組み合わせて運転手さんを確保する事が出来ます(運転手さんが折り返せる三ヶ日の存在が光ります)。また、一般路線バスを運行していれば、平日に比べて需要の落ちる土休日は一般路線バスの運転手さんを高速バスの応援として確保する事も出来ます。しかし、東北急行バスは東京と仙台に営業所があるだけ。しかも一般路線バスの運行はしていません。
かつて、高速ツアーバスは”高速だけやるので美味しいとこ取り”という批判がありました。しかし、高速路線しか運行していない東北急行バスを見る限り、本当にそうなのか?…とも考えてしまいます。
私は高速バスにかかわる方に、高速路線は「ハイリターンだけど、ハイリスク」と教えて頂いた事があります。たとえ、どんなに経営が苦しくても、地域の一般路線のように補助金が出る訳ではないし、競争も激しい。東北急行バスを見て、その意味がわかったような気がしました。
佐野SAを発車して約2時間が経過し、3時19分に安達太良SAに到着。最後の休憩です。
私が乗車している「スイート号」の隣には、格安便の「ニュースター号」が休憩していました。現在、東京~仙台間で東北急行バスが展開している高速バスは「スイート号」、「ニュースター号」、「ホリデースター号」の3種類があります。東北急行バスしか選択肢のない人には良いのかもしれませんが、楽天トラベルなどで他ブランドと比較した場合には、その差を判別するのは難しく、いっその事「ニュースター号 独立3列シート便」や、「ニュースター号 4列シート便」のように、ブランドを統一してもいいような気もしました。
・・・さてさて、安達太良SAを発車後は再び夢の世界へ・・・zzz
そのうち、車両の揺れが高速道路の単調としたものから、停止や発信、右左折に変わった事に気が付きました。どうやら高速道路を降りたようです。車内の灯りが点灯し、4時15分に福島駅東口に到着しました。降車したのは2人。ここから乗車する事も可能ですが、さすがにいないようです。
その後、5時25分に仙台駅前に到着。ここで、ほとんどの乗客が降車。
そして、その数分後には終点の仙台営業所へ。東京駅八重洲通りから約5時間半の旅でした。
高速バス激戦区の東京都内~仙台間ですが、東北急行バスの競争相手は高速ツアーバスだけではありませんでした。日本中央バスが新宿~仙台間、JRバス東北と京浜急行バスが横浜・品川~仙台間、京王電鉄バスと宮城交通が新宿~仙台・石巻間をそれぞれ運行したり、JRバス東北の「ドリームササニシキ号」が仙台を経由するようになったり・・・と、どんどん供給量は増えていきます。
しかし、乗合バス各社が路線開設や増便を行っても、結果的に高速ツアーバスがシェアを取る事が出来たのは、高速ツアーバスは貸切バスの手配が出来れば、いくらでも便数を増やす事が出来たからではないかと思います。もしも、「貸切バス型管理の受委託」のような制度が規制緩和以前から存在し、乗合バス事業者が需要の多い日に活用していたならば、もしかしたら違った結果もありえたのではないか?そんな気もしました。最近では、九州急行バスが長崎県営バスに委託をしたり、東北急行バスも「ニュースター号」の応援に同じ東武グループの関越交通が入るなど、一般路線を持たないバス事業者の戦い方が定まりつつあるようです。まもなく改正される予定の「乗合バス型管理の受委託」の新制度も有効なツールになるかもしれません。(※今まで委託者の車両しか使用できなかったが、改正後は受託者の車両でも使用出来るようになる予定)
現在の東北急行バスは、格安便の「ニュースター号」を主力に、需要の少ない時は独立3列シートを安く、需要の多い時は4列シートで需要に応え、さらに独立3列シートの「スイート号」、「ホリデースター号」でニーズに応えるなど、市場の需給状態に合わせた運行をしています。
道路運送法上の問題はなかったものの、乗合バスと比べて制約が少なかった高速ツアーバスとの競争。規制緩和による需給調整の撤廃を受け、参入してきた高速乗合バスとの競争。全19台しかバス車両を保有していない東北急行バスが、よくぞここまで競争に耐え、市場で戦える事業者になったものだと思います。
細かい課題はあると思うものの、東北急行バスはもっと評価されても良いのではないか?
そう感じた「スイート号」の旅でした。
<撮影2015年6月>
あとがき
…東北急行バスは大きなリスクをとらない堅実な事業者だと思います。もしも、長年の独占時代に増車、増員していれば、今も東京~仙台間で、シェアナンバー1のブランドだったかもしれません。それどころか、免許を所有していたのですから、東京~福島間や福島~仙台間のような区間でも共同運行・・・いや、単独で路線を持つ大きな高速バス事業者になっていた可能性もあります。
ただし、それはとったリスクが成功した場合の話です。一般路線を持たず、高速路線一本で勝負している事業者ですから、失敗した場合のリスクも大きい。同じような沿線出資のバス事業者であった、東名急行バスや常磐急行バスの末路を見ているからこそ、今も堅実な経営をしているのかもしれません。