「東京2020大会」バスの記録です。
1964年の「東京大会」以来、57年ぶりに首都「東京」で「オリンピック・パラリンピック」が開催されました。大会では、関係者の輸送手段の一つとしてバスが大活躍しました。掘り下げると、様々な施策が見えてきます。渋滞なく円滑に輸送するための「交通マネジメント」、車いすを利用したままバスに乗車出来る「バリアフリー」、大会関係車両の「セキュリティ」、日本の広範囲から「応援に駆け付けたバス」等々。撮影したバスの記録をまとめました。2021年の熱い夏を写真で振り返ります。
オリンピック編
東京2020オリンピック
2021年7月23日~8月8日(17日間)
開会式 2021年7月23日 オリンピックスタジアム
閉会式 2021年8月8日 オリンピックスタジアム
2021年7月中旬 羽田空港 第3ターミナル
オリンピック開催を前にバス輸送が始まりました。バスにとって「熱い夏」が幕を開けます。
新木場駅付近
築地・若洲・葛西デポ所属の車両が稼働を開始。ピンク色の「TOKYO2020」ステッカーを掲出したバスが鈴なりに現れました。
車両には、所属デポと車両番号が表記されました。
頭文字の「T」は築地デポ所属、「W」は若洲デポ所属、「K」は葛西デポ所属とみられます。
この他に「C」自社営業所(?)、「R」静岡・山梨地区(?)も目撃しました。
前面には「VAPPS」の表示が掲出されました。
これは会場で確認される、車両認証と駐車許可を色や文字で情報化したものです。
バスに関しては前面に「∞」、「シリアルナンバー」、「SYS」、「ステークホルダー」(※後述します)を表示しました。
会場の許可証チェックポイント(PCP)
バス車両には「∞」と「SYS」の表示がありました。このチェックポイントでは、それぞれ会場へアクセス可能、駐車可能を意味するものとみられます。
池袋駅付近を走る、はやぶさ国際観光バス(本社:大阪府)
大会輸送では、日本の広範囲から貸切バスを集めました。普段、東京で出会えない事業者が活躍する姿は国際大会ならではです。
国際展示場駅付近
東京大会のマスコット、「ミライトワ」と「ソメイティ」のオブジェ。
7月23日 オリンピック大会開幕
開会式は、国立競技場(オリンピックスタジアム)で行われました。
オリンピック大会のスタートです。
東京国際フォーラム
3台のバスが到着しました。大会会場でのバスの動きを見てみましょう。
前の2台は選手団(TA)輸送、後の1台はメディア(TM)輸送です。
「東京2020大会」では、バブル方式を採用しました。
選手団を乗せた2台のバスは直進。セキュリティチェックを受けて東京国際フォーラムの「バブル内」へ進みます。
メディア輸送のバスは左折。東京国際フォーラムの「バブル外」で発着を行いました。
バブルの内と外。2つの乗降場を使い分けたのが大会輸送の特徴です。
バブル内に入るバスは、トランク、給油口、ドア・・・等、開口出来る箇所を徹底的に封印しました。
選手村(東京晴海)
選手団の宿泊ベースとなった晴海の選手村です。
ゲートから名阪近鉄バスが出てきました。この周辺はバス撮影の定番スポットでした。
選手村へ入るバスは、ここでセキュリティチェックを受けます。
原則、選手村内に入るバスは、築地デポ所属の車両でした。
「東京2020大会」のバス輸送は、ハブ&スポーク方式を採用しました。選手団(TA)輸送のハブ拠点は、選手村の「選手村輸送モール」です。次から次へとバスが出発・到着します。
8月上旬 若洲デポ周辺
若洲のデポを訪れました。
ピンク色の大会ステッカーはありませんが、ピンク色のウィラーも大会輸送の一端を担いました。他にもIBS COACH、富士急バス、日立自動車交通、HMC TOKYO等、「ドライバー送迎」の札を掲出したバスが、宿舎や休憩施設~各デポ間を結びました。
オリンピック期間中の若洲デポでは、特に九州勢の活躍が注目されました。
九州産交バス
熊本電鉄
西鉄観光バス
鹿児島中央観光バス
堀川観光バス
西肥バス
JR九州バス
他にも、亀の井バス、昭和自動車、長崎県営バス、長崎バス、大分交通、祐徳自動車・・・などが上京しました。
冗談ですが、オリンピックが終わった後、九州に帰る前にJR九州バスを「てっぱく」に展示してくれないかな…なんて考えてしまったり(^^)
個人的に、オリンピック輸送で一番気になった車両は、富士観光バスのガーラGHDでした。
ベテランの風格。マルーン色の帯をしたボディが、しっかりと磨かれていてカッコイイのです(・∀・)
8月6日 選手村
「東京2020大会」オリンピック閉会式当日
17日間の日程を終え、オリンピック大会は閉幕。閉会式の行われるオリンピックスタジアムへ向けて、選手村から145台のバスが出発しました。バスファンだけではなく、地域住民の方々も一緒になって選手団をお見送りしました。
その後の選手村
閉会式が終わった翌日、翌々日は選手団の帰国ラッシュでした。
観光バス+大型トラックというタッグが組まれ、空港に向けて出発していきました。
こちらに手を振って下さった選手団の方々。ありがとうございます。機会ありましたら、再びどこかでお会いしましょう(^^)/
交通マネジメント編
続いて8月24日のパラリンピック開幕へと移行しますが、その前に「東京2020大会」でのバス輸送の施策についてまとめます。
東京2020大会では、大会関係者、スタッフ、観客など、大勢の輸送が見込まれました。
この大規模な人数を円滑に輸送するため「交通マネジメント」が計画・実行され、交通需要の低減や交通規制の実施による円滑な交通の維持を図りました。そのいくつかを紹介します。
料金施策
日中の交通需要低減、そして夜間移動へのシフトを促進するため、首都高速道路では料金施策を実施。オリンピック期間中とパラリンピック期間中、昼間(6時~22時)は料金を1000円上乗せ、夜間(0時~4時)はETC車の料金を5割引きとしました。
首都高速道路 入口の閉鎖
必要により首都高速道路の入口閉鎖を行いました。大会関係車両は通行できます。
高速バス(路線バス)の通行も許可されました。
料金施策や交通規制の効果は抜群だったようです。
特に首都高速道路の都心部は概ね順調に流れていました。
関係者輸送ルートを示す路面表示・看板の設置
大会関係車両が通行する事を一般に周知するため、「TOKYO2020」の路面表示、看板の設置が行われました。
国道246号線、青山通りに設置された看板
首都高速道路、3号渋谷線に設置された看板
静岡県、須走小山線との合流部に設置された看板
大会専用レーン、優先レーンの設定
大会関係者輸送ルートでは、都県公安委員会による規制標識の設置や路面表示が行われました。
専用レーンでは、通行帯の中央に「実線」の路面表示が行われました。
続いて、優先レーン。
優先レーンでは、通行帯の中央に「破線」の路面表示が行われました。
会場周辺における交通規制の実施
選手村や大会会場周辺においては、通過交通の進入を抑制する交通規制を実施しました。大会関係車両以外の通行を規制するものですが、原則として、生活、業務等に係る交通については進入抑制の対象外とされました。このため、一般車の走行しない広々とした道路を走る路線バスの姿が見られました。
駐車対策
会場周辺では、パーキングの休止や駐車禁止の広報等、駐車車両対策が行われました。
信号の調整
開会式や閉会式など、大規模な輸送が行われる際は、信号の調整が行われました。
本線料金所の通行制限
高速道路では、交通量を調整するため、開放するレーンの制限が行われました。
迂回促進の広報
歩道橋への横断幕設置を行い、車両の迂回を促しました。
パラリンピック編
東京2020パラリンピック
2021年8月24日~9月5日(13日間)
開会式 2021年8月24日 オリンピックスタジアム
閉会式 2021年9月5日 オリンピックスタジアム
2021年8月中旬
晴海付近 名阪近鉄バス
パラリンピック開催を前に、バスが再びデポに集まってきました。
選手村運営ゾーン
空港から到着したバスとトラック。選手村では、パラリンピック選手団の受け入れが始まりました。
築地デポ
パラリンピック選手団を輸送する築地デポ所属車は、バリアフリーに対応した車両が集まりました。
はとバスのリフト車
車内を見ると、座席をスライドして、車いすを利用する方のスペースを多くとっているのがわかります。
神姫観光 エアロエースエレベーター仕様
京王バス セレガリフト仕様
畳石観光 ローザ(リフト仕様と思われます)
サザンセト交通 レインボー(リフト仕様と思われます)
オートウィル アストロメガ
東交観光 リフト付き福祉車両
日東交通 エアロスターノンステップバス
このように、車いすを利用したまま乗車出来る車両が集まりました。
個人的に、パラリンピック輸送で一番気になった車両は、近鉄バスのエアロエース(エレベーター仕様)7002号車でした。
いつか関西を訪問したら、この車を撮影したいと考えていました。それなのに、まさか車両の方が関東に来てくれるとは(^^)
青山一丁目付近
8月24日 パラリンピック大会開幕
パラリンピック大会の開幕です。
選手団を乗せたバス群が、開会式の行われるオリンピックスタジアムへと向かいます。
沿道には手を振るギャラリー。選手団の方々も笑顔で返していました。
青山通り
選手団をオリンピックスタジアムに送り届けると、今度は選手村への帰村に向けて体勢を整えました。
外苑西通り 大京町付近
PF(パラリンピック・ファミリー)輸送は外苑西通りで待機。運営幹部や要人が乗車します。
神宮球場
パラリンピック大会の競技が始まりました。
神宮球場では、オリンピックスタジアムに到着したバスが球場の外周を使って転回しました。
南青山三丁目
選手村へと戻る、レスクルの西工車。バスファンの注目が高かった車種の一つです。
静岡県 富士スピードウェイ
富士スピードウェイでは、自転車競技を開催しました。
栄和交通 エアロクイーン2リフト仕様
晴海の選手村では、開会式や閉会式の辺りでしか目撃されなかった車両があります。おそらく、これらは宿泊地~地方競技会場間をメインに活躍していたと思われます。
8月下旬 東京ビッグサイト
東京ビッグサイトには、IBC(国際放送センター)、MPC(メインプレスセンター)が設けられました。ここは世界中からメディア関係者が集まる報道の拠点です。
IBC(国際放送センター)が東棟、MPC(メインプレスセンター)が西棟です。
選手団(TA)輸送のハブ拠点は「選手村輸送モール」でしたが、メディア(TM)輸送のハブ拠点となったのは、この東京ビッグサイト東側に設けられた、MTM「メディア輸送モール」です。ここから宿泊ホテルや競技会場等を結びました。
MTM(メディア輸送モール)~MPC(メインプレスセンター)を循環する都営バス
言い換えれば、東京ビッグサイトの東棟~西棟間を結ぶバスです。この系統には燃料電池バスも充当されました。世界のメディアに日本の水素技術を披露する機会にもなったのではないでしょうか。
東京ビッグサイト周辺
バックの高架橋は首都高速10号晴海線へのアプローチです。首都高と一般道。大会輸送の共演が撮りたく狙ってみましたが、なかなかタイミングがあわず、納得がいく撮影まで1時間近くかかりました(^^;)
東京ビッグサイト周辺
首都高速10号晴海線からのアプローチを走る京福バス。
9月上旬
首都高を降りて、外苑東通りを走行する神奈中観光バス。
築地デポ カレッタ汐留の展望スペースから
デポには、車両駐車スペース、営業所機能、洗車・給油・点検施設等が設けられました。
豊洲市場付近
市場前を走る都営バス。
ゆりかもめと奈良交通の共演。
競技日程は進み、まもなくパラリンピックは閉会。この頃は、天候が良くなくて残念でした。
そして閉会式。当日の撮影は出来なかったので、閉会式後の記録へと移ります。
築地デポ周辺
閉会式翌日の築地です。
帰国する選手団を成田空港へ送り届け、近鉄バスがデポに戻って来ました。
勝どき橋
羽田空港からデポに戻る名阪近鉄バス。
築地交差点
大会輸送を終えたバスの帰郷も本格化しました。築地を離れる関東バス。
勝どき橋
三重交通も帰郷です。大会輸送お疲れ様でした!
「東京2020大会」では、競技の多くが無観客開催となりました。
本来であれば、観客輸送でもバスの活躍が見られるはずでしたが、残念ながら幻となった会場ばかりでした。
羽田空港 第3ターミナル
メディア(TM)輸送の最終日。
2ヶ月間に渡った「東京2020大会」のバス輸送は、まもなく終了です。
デポの車両は徐々に数を減らし「熱かった夏」は静かに幕を閉じました・・・
ステークホルダーとフリート車両編
「東京2020大会」での、ステークホルダーとフリート車両をまとめます。
「東京2020大会」では、多様なステークホルダーに応じた輸送計画が策定されました。
ステークホルダーをまとめてみます。
「TA」:選手及び各国オリンピック委員会関係者
「TM」:メディア関係者
「TMa」:車いす利用のメディア関係者
「DDS」:オリンピックのホスト放送局関係者
「TS」:観客
「T1・T2・T3」:オリンピック・パラリンピック運営幹部・要人
「TF」:国際競技連盟関係者
「MP」:マーケティングパートナー関係者
フリート車両について
「東京2020大会」で使用されたフリート車両は、ワールドワイドパートナーであるトヨタ自動車から調達しました。
ガソリン車は赤色デザイン。プリウス、ノア、ヴォクシーなど、低燃費・低公害の車両を選択しています。(画像はT3輸送)
燃料電池車は青色デザイン。ミライ。(画像はMP輸送)
ハイラックスも見かけました。
黒塗りのレクサスも!
タクシー車両も活躍しました。
フリート車両ではありませんが、ハイヤーの不足を補うために、臨時的にタクシー車両のハイヤー運行を行いました。
「東京2020大会」バスとレガシー編
「東京2020大会」のレガシーとバスについてまとめます。
レガシーとは「オリンピック・パラリンピック競技大会等の開催により開催都市や開催国が、長期にわたり継承・享受できる、大会の社会的、経済的、文化的恩恵のこと」とされています。
バスにとって、レガシーとなるものは、まず都心と臨海地域を結ぶ「TOKYO BRT」です。2020大会にむけて、臨海地域の交通需要増加に対応すべく「東京BRT」がプレ運行(一次)を開始。今後、速達性や定時性の向上、停留所への自動正着制御など、技術革新と連携しながらプレ運行(二次)、本格運行へと移行をします。また、晴海の選手村跡地には、計画人口12000人の街づくり「晴海フラッグ」が誕生します。新しい街の輸送手段として「東京BRT」の活躍が期待されます。
それから「水素エネルギーの普及」もバスにとってレガシーの一つです。2020大会に向けて、臨海地域を中心に水素ステーションの整備、燃料電池バス、燃料電池自動車の導入が進められました。これから更なる、水素社会の実現、再生可能エネルギーの促進、温室効果ガスの排出量削減に向け、取り組みが加速をします。私達の街にも、水素ステーションが整備され、燃料電池バスが走り出す。そんな日が訪れる事でしょう。
お馴染みの「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会特別仕様ナンバープレート」もレガシーと言えます。人々に広く認知され「東京2020大会」の機運を高めてきました。こちらは2021年9月30日をもって申し込み受付は終了。今後は車両の世代交代、転籍・転属等でナンバー変更の事由が生じれば、その数を減らしていく事になります。
最後に、時の流れと共に「東京2020大会」の記憶は人々から薄れていきます。
2021年の夏に開催された、オリンピック大会・パラリンピック大会において、たくさんのバスの活躍があった事実を残したく、ここに記事をまとめました。バス輸送に関わった全ての関係者の皆さま、バスを追いかけたファンの皆さま、お疲れさまでした。
<撮影2021年7月・8月・9月・10月>