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外ヶ浜町町営バス 三厩地区

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青森駅からJR津軽線の電車とディーゼルカーを乗り継ぎ、終点の三厩駅に到着しました。三厩駅まで走行する列車は1日5往復のみ(2014年2月現在)。列車を降りた数少ない乗客達は、改札を抜けると駅前に停車しているそれぞれの送迎の車に乗車して三厩駅を後にしました。駅前に残ったのは私と同行者だけ。



駅前に停車しているのは、これから私達が乗車する外ヶ浜町の町営バスです。白色のナンバーからわかるように自家用車。このような車でバスを運行してよいのかと同行者は怪訝な顔をしていました。道路運送法では、自家用自動車は有償で運送の用に供してはならないとされていますが、例外もあり、この法律(2006年改正以前)では「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であつて国土交通大臣の許可を受けたとき」は有償運送が出来るとされています。この条文があるのが80条であったために通称「80条バス」と呼ばれました。(2006年の改正以後は78・79条が有償運送の条文になり、国土交通大臣の”許可”から”登録”に変更になっています)

この80条バスは鉄道や路線バスが廃止され、地域の足が完全に無くなってしまうのを防ぐために市町村などの自治体が運行するケースが多く、これから私達が乗車する三厩駅〜龍飛崎灯台間も歴史をたどれば元は青森市営バスの路線バスです。



車両は日野メルファ。いわゆる中型バスです。降車ボタンの設置があり、音声合成の車内放送も流れます。このように自家用車による有償運送といえども、乗合バスと同じ形態であると、その地域以外の人でも抵抗感なく安心して使えると思いました。

これから人口減少や高齢化が進む日本において、このような自家用有償運送が果たす役割は今後重要になっていくと予想されています。今は国が自家用有償運送の権限を持っていますが、地方分権の観点から今後は市町村などの自治体に権限を委譲しようとする考えもあり、その数も増えていくと思われます。限られたコミュニティ内を走行する自家用有償運送に乗合バスの車両性能(基準)まで求めなくともよいのではないか?という意見もあるようです。



私と同行者の2人を乗せてバスは発車しました。まずは三厩の駅前通りを走行します。



しばらくすると、このような道幅の狭い集落を通過。



海岸線に出ました。津軽半島の太平洋側、国道339号線を北上しています。

今回、この町営バスに乗るキッカケとなったのは、同行者と旅行の計画を立てていた時の私の発言でした。

「龍飛崎の階段国道の方まで行きたいね。三厩駅から歩けるのかな。あっ、今、ネットで調べたら三厩駅から町営バスで40分って書いてある…」

私は町営バスという文字を見つけ、この計画は難しいとロクに調べる事もせず諦めてしまいました。町営バスは地域住民の足というイメージが強く、旅行者が気軽に乗車出来るものではない。なので、きっと旅行者が使えるようなダイヤではないだろう。…そう決めつけてしまったのです。ところが後日、同行者が立てた計画を聞いて驚きました。龍飛崎では30分弱しか滞在出来ないものの、三厩駅から往復が可能であると。それならば是非行こう!

同行者の説明により、三厩駅から町営バスで往復出来るのはわかりましたが、果たして旅行者が気軽に乗車出来るバスなのだろうか?…そんな疑問は町営バスを目にするまで心の片隅に残っていました。正直なところ、ワンボックスカーか何かに乗る事になるのだろうと勝手に想像していましたが、実際に現れたのは中型バスのメルファ。しかも車体には観光施設である青函トンネル記念館のラッピングがされています。自家用有償運送の基本は地域住民の運送ですが、観光地という事もあってか、三厩地区の町営バスは観光客も歓迎してくれていました。



三厩駅から龍飛崎までは約11キロ。このような素掘りのトンネルもあります。昔は道路が整備されておらず、ジープが通れる程の幅しかなかったそうです。青函トンネル建設時、本州側の基地となる龍飛崎への道路整備は大きな課題でした。バスが走行している国道339号線の内陸側にも三厩と龍飛崎を結ぶ道路(県道281号線)が存在するのですが、短い区間に国道と県道の2道路が平行するのは青函トンネル建設という大プロジェクトの賜物なのかもしれません。



運転手さんが「今日は北海道が見えるよ」と教えてくれました。



本州最北の集落、龍飛漁港に到着。階段国道の下側に当たります。バスは龍飛漁港を折り返し、坂を登り階段国道の上側へと向かいます。



坂を登ると「青函トンネル本州方基地 龍飛」の文字が見えました。JR松前線(1988年廃止)渡島吉岡駅の近隣だった北海道側の基地、吉岡とは違い、この龍飛は交通の便も悪く、厳しい環境の土地でした。特に冬は台風並みとも言える風速30m級の強風が吹き荒れ、雪が横から降るそうです。宿舎は火災予防の理由からストーブを使用せず、スチーム暖房設備を構築したのだとか。私達が訪れた日はほぼ無風とも言える程の穏やかな気候。かつて、この場所に住み込み、工事を行っていた作業員の方々の苦労をうかがい知る事は出来ませんでした。

この場所には青函トンネル記念館があります。トンネルの構想から完成までをわかりやすく展示している資料館で、ケーブルカーで海面下140mまで降りることもできます。残念ながら時間の都合で訪れる事は出来ませんでしたが、いつかリベンジしたい場所です。



終点の龍飛崎灯台に到着しました。ここまでの運賃は100円。金額だけ見ても営利目的ではなく、行政の交通サービスといった感じです。



階段国道は凍結の恐れありで閉鎖中。折り返しとなるバスの発車まで28分あるので、階段国道が通れるならば先ほどの龍飛漁港から帰りのバスに乗車するのが定番コースらしいです。



津軽海峡冬景色。対岸に見えるのは函館でしょうか。かつて、この海峡を青函連絡船が本州と北海道を結んでいました。1988年に津軽海峡線が開通すると本州と北海道は陸続きになります。快速海峡号、特急白鳥号・スーパー白鳥号の時代を経て、2015年度中には北海道新幹線の開業が予定されています。

高速鉄道網の発展、そして自家用有償運送といった地域輸送の地方分権への考え。バスに乗車して龍飛を訪れ、日本の交通の未来への道筋の一部が見えてきたような気がしました。

<撮影2014年2月>

参考文献:交通新聞社新書 青函トンネル物語

※龍飛崎は竜飛崎とも書きますが、ここでは停留所名の龍飛で統一しました。

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